コラム

【実談】会社を辞めて残業代200万円を請求した話

zangyo

はじめに

これは2012年頃の、私の前職の話です。

Webサイトの作成やサーバの運営、CM作成などを行っていた、社員が15人ぐらいの会社に勤めていて、18時終業ですが残業が常態化していました。残務があって残っている人がほとんどですが、中には特にすることもないけど19時まで読書している人もおり、なんとなく「みんな残ってるから19時までは居よう」みたいな空気感がありました。

私はというと、完璧主義の上司(チーフ)に振り回され、細かすぎる情報収集や分析、誰の役に立つのか分からないような資料作成に奔走しており、毎日2-3時間の残業をしていました。あるときは、「これが全部終わるまで今日は帰るな!」と言われ、会社で徹夜したこともありました。

「この会社を辞めるときには絶対に残業代を請求してやる!!」

と、強く思ったことを今でも覚えています。

こんな上司もいたので、在職中に残業代を請求するというリスクは侵さず、退職したあとに請求しようと思っていました。

そして、会社を辞めた直後に人事権を持った部長へ直接電話をし、自分一人で残業代請求の交渉を行いました。初めは残業代の満額200万円を請求しましたが、裁判をしてまで全額を回収しようとは思っていなかったので、郵便での書簡のやり取りの末、1ヶ月半後には無事に90万円で示談が成立しました。

200万円の請求に対して、半額以下の90万円になってしまいましたが、自分としては十分納得して示談できたので、そう思った背景含め、これから残業代請求を考えている人がどのようなアクションを取れば良いのか、参考になれば幸いです。

決して泣き寝入りはせずに、勇気を出して請求して欲しいと思います。

残業代を請求した実際の流れは以下です。

残業代請求の流れ

  1. 在職中に残業代の証拠集め、請求準備
  2. 会社を辞めた2日後に部長に電話
  3. 上記と同時に配達証明付き内容証明郵便で残業代請求
  4. 会社と合計2往復の書簡やり取り
  5. 約1ヶ月後に90万円で示談成立

それぞれについて、話していきます。

在職中に残業代の証拠集め、請求準備

■残業時間の計算

まず、会社を辞めたときには残業代を請求してやろう!と、強く決めていた私がやったことが、この残業時間の証拠集めです。この会社ではタイムカードが存在せず、何時に出勤して何時に退勤したかの勤務記録が残っていませんでした。そのため、残業時間どころか、自分の勤務時間がどのくらいなのかが分かりません。

そこで、どのように自分の勤務時間を割り出したのかというと、会社で使っていたグループウェアのログイン時間を使いました。当時、サイボウズというグループウェアを会社で使っていて、会社に来た始業時間には必ずログインし、退勤時(PCシャットダウン時)にログアウトしていたので、そのログイン記録が残業代請求の証拠になるのではないかと考えました。

在職中にサイボウズのログイン履歴をcsvでダウンロードし、中身を見たところ、ログイン時間とログアウト時間が分かり、バッチリそのまま残業代請求の計算に使えそうだと思いました。そのデータを元に残業時間を計算したところ、約200万円程度だということが分かり、その200万円を請求することにしました。

請求額を計算するときに注意点したこととしては、そのログイン時間も2年分すべてが正確かどうかのチェックはしきれなかったので、計算上で出た金額に対して少なめにしておきました。今回は弁護士を介さないので、もし会社側でもこちらが出した時間の整合性チェックをされ、「多すぎじゃないか!適当な金額を出すな!」と言われないようにするためです。

■請求準備

実際に残業代を請求するに当たり、私は弁護士に依頼するべきかどうかで悩みました。

「弁護士に依頼すると正当な金額が請求できるだろうけど、裁判までになって徹底的に会社とやり合うのは疲れるな・・・弁護士費用も支払わないといけないし。。」

と思い、自分で請求する方法も調べた結果、労力と成果、それに精神的な負担も加味して、自分で請求することにしました。社員が15人位の小さな会社でしたし、弁護士事務所に相談しに行って弁護士を通して会社と何度もやり取りして、自分と会社が疲弊しながら徹底的に闘って満額請求に成功するのと、自分だけで書類でやり取りして満額とは言わないまでもそれなりの額が認められて支払って貰うのと、どちらが良いかで比較して判断しました。

あと、最悪自分での示談交渉がこじれた際に、弁護士に相談したのでも遅くないと思ったのもあります。

自分一人で残業代を請求するに当たり、最低限必要な知識としては3つだけです。

1.残業代の時効は2年間

2.配達証明付き内容証明郵便で残業代請求すれば、その時点で時効は半年止まる

3.一部の勤務形態や条件、役職等の場合は残業代が請求できないケースはある

これだけ押さえていれば、あとは自分で行動に移すのみです!

ちなみに、3のケースはあまりないと思います。こちらについては、また別の機会に解説したいと思います。

辞めた2日後に部長へ残業代請求の電話

会社を退職した2日後、私は人事権を持つ部長の個人の携帯電話宛に残業代を支払ってほしい旨、連絡をしました。時効の存在を知っていたので早く請求をしたかったのですが、流石に翌日は早すぎると思ったことと、2日後が祝日だったので部長と連絡が取れやすく、落ち着いて話ができると思ったからです。

まず事前に断っておきますが、残業代を会社に請求するにあたって、必ず直接会社側に連絡しなければならない、という訳ではないです。私の場合は、今後スムーズに話を進めるため、また、この部長とはコミュニケーションには問題がなかったため、勇気を出して電話をしました。こちらの意図を伝えておくことで、電話での相手の返答に関わらず、この直後に送る内容証明郵便での請求に対して、相手がそこまで驚かずに対応できると思ったからです。

会社側も、いきなり辞めた人から直後に書類が届き、何かと思って封を開けると残業代支払ってくれ!の文章を見るとびっくりしますよね?(笑)それに、何も言わずに書類を送って、後で会社から確認の電話があるかもしれないのも嫌だな、と思ったことも理由の一つです。

そして、実際に部長に対して電話で残業代を支払って欲しいと伝えた際の、部長とのやり取りが以下です。

私
いきなりすみません、、急な話で申し訳ないのです。残業代を払って頂きたいのですが。

上司
上司
残業代っていうか、成果給として会社の業績が良いときには毎月多めに支払ってるやろ?あれが残業代のようなもの。いつもより多めに渡してるからね。

私
でも、それは成果給であって、”残業代”としてではないですよね?

上司
上司
まあ、それにうちはCM作成とか時間が決まっていない業務もあるし、その場合は残業とみなされない場合もあるよ。ちょっと調べておいてよ。

私
分かりました。ちょっと調べてみて考え直します。お休みのところ、すみませんでした。

上司
上司
うちにも知り合いの弁護士はいるし、一応聞いておくわー。

そして、その電話が終わった直後に、郵便局に行って配達証明付き内容証明郵便で残業代請求の書簡を送りました(笑)

配達証明付き内容証明郵便で残業代請求

配達証明付き内容証明郵便とは

主に債権回収などに使われる書類の発送方法で、「内容証明郵便」を利用することで、郵便局側で原本をコピーして持っておいてもらい、誰が誰に対してどういった内容の書類を送りました、という客観的な証拠を残しておくことが出来ます。また、「配達証明」を付けることで、いつ送ったかも証明されるため、残業代請求で時効を止めるために必要です。ちなみに、送料は1,200円~1,500円程度です。最近では、「e内容証明(電子内容証明)」と言って、窓口に行かずにネット上から郵送できる仕組みもあるそうです。

上記の理由から、残業代を個人で請求する場合、配達証明付き内容証明郵便で残業代請求の通知書を送ることは必須です。それに、受け取った会社側にもこちらの本気度が伝わります。

■残業代請求のための書類について

会社に送付する残業代を請求するための書類ですが、こちらについては、ネットで自分で調べてWordファイルのテンプレートを見つけて、カスタマイズしました。これはそれほど時間はかからず、文面を少し変えて、請求金額を入力しました。数年前なので、残念ながら自分が作成したファイルは見つからなかったのですが、以下のような内容です。

通知書

 私は、平成〇年〇月〇日に入社し、貴社にて勤務してまいりましたが、平成〇年〇月〇日の退社するまでの期間において、合計〇〇時間の時間外労働をいたしました。しかし貴社は、私の時間外労働に該当する時間外手当の合計額金〇〇円を支払っておりません。

 したがって、私は貴社に対し、平成〇年〇月〇日より平成〇年〇月〇日までの時間外労働に対する割増賃金の合計額金〇万円の支払いを請求いたします。

上記未払いの割増賃金〇〇円及びこれに対する〇〇年〇〇月〇〇日から支払済みまで、商事法定利率年6分による遅延損害金等を合わせて、本書面到達後14日以内に下記口座へ振込にてお支払い下さい。

〇〇銀行〇〇支店
口座種別 〇〇
口座番号 〇〇〇〇〇〇〇
口座名義 〇〇 〇〇

本書到達後7日以内に入金の確認ができない場合、誠に遺憾ながら本件を含めた労働基準監督署への申告あるいは労働審判手続きの申立てを行う場合もございます。
しかしながら、私は本件を早期且つ穏便に解決することが双方のためであると考えており、司法の判断を仰ぐ形での解決を望んでいるわけではございません。貴社から関係法令に基づく反証あるいは適切なご提案があれば真摯に検討させて頂く用意もあることは申し添えます。
なお、今後の連絡等は文書のみとし、私や私の家族等への電話や来訪等の直接折衝はご容赦下さい。

自分でも色々テンプレート文章を見た中でも、この内容が一番しっくり来ました。相手に本気度が伝わるとともに、「徹底的にあなたと戦い合いたいわけじゃないよ。常識の範囲内だったら示談の提案も受けるよ。」と、相手に「余白」を持たせることができ、お互いに感情的になり過ぎずに進められると思いました。

そして5日後、会社からの返信がやってきました。

会社と合計2往復の書簡やり取り

残業代請求を送って5日後に会社から返事が来ました。

私の主張が全面的に受け入れられるのか、、はたまた全面戦争突入か、、ドキドキの返答がこちらです!

この度は適正な残業代を支払うことが出来ておらず、誠に申し訳ございません。残業代の支払いには同意いたしますが、御存知の通り、弊社は企業体力のない中小企業でございます。ご希望の金額のご用意が難しいため、90万円で示談いただけないでしょうか。

ご同意いただけるようでしたら、3週間後の○月○日にお支払いいたします。

敬具

この内容を見た瞬間、正直「200万円貰えないのか・・・」と思いました。

しかし、冷静に考えると、そこまで儲かっている会社でもないし、数ヶ月前にあった大口顧客とのトラブルで今後の取引が打ち切りになり売上が減ったことも知っていたので、相手の申し出を受けることにしました。

私から示談について受け入れる旨の返答を書き、相手に郵送しました。相手が期限に支払わないリスクもあったため、期限に支払いがない場合は裁判起こしますよ、的な内容も盛り込んでおきました。

私から相手に書簡を送ったのは初回とこの返答の2回のみで、2往復で完結することが出来ました。

ちなみに、配達証明付き内容証明郵便で送ったのは初回の請求時のみで、相手からの返答は当然そのような形式では送られずに普通郵便で届き、私からの2回目の返答は配達記録郵便のみで送りました。

1ヶ月半後に90万円の支払い

私が部長に電話をしてから約1ヶ月半、相手が指定してきた振込の日になりました。

結論から言うと、無事に90万円きっちり支払いがされていました。

書簡でやり取りしてお互い合意したものの、きちんと支払われるか、3週間ずっと心配でした。なにしろ希望の200万円はなかったにしても、90万円という大金です。それに、もし支払いがなければ、弁護士に相談した上での第2ラウンドに突入です。

銀行の通帳を見た瞬間、そんな心配が消えたので心から安心しました。

期間にするとたったの1ヶ月半ですが、もっと長く感じたように思います。そんな苦労が報われて本当に良かった。。パワハラ上司への怒りも消えました。

まとめ

一部の労働条件に当てはまる人以外、残業代を受け取るのは労働者としての権利です。残業代を支払わないのは法律違反です。

今回は90万円を手にすることが出来ましたが、本来であれば受け取っていたであろう200万円を差し引いた110万円の損害を受けています。

就職や転職をする際は、必ず企業HPや求人情報を見て、採用になる前にも企業側にも残業代は出るのか確認しましょう。会社として基本的な部分なので、これが守れていない企業はブラックである可能性は高いです。実際に私がいたこの会社は、上司から部下へのパワハラ行為も日常茶飯事でした。

ただ、そんなネガティブな気持ちも、残業代を勝ち取ったことで個人的にはスッキリしたので、残業代を請求しようと思っている人の参考になれば幸いです。